「15時半頃に富山市街を出て10〜15分後に現場に到着します」
ヘリのダウンフォースで風が強いので要救助者をしっかり支えて下さい、
サングラスや帽子などは外して同行者は50mほど離れて、
登山者が来るようなら救助が終わるまで止まってもらうよう誘導して下さい。
その3時間前、我々が越中沢岳で休憩していたその時
ゆっくりした足取りの登山者がやって来た
挨拶をする、違和感は何もない、
だが近づいて来て分かったが、こめかみから血が流れている
(要救助者は僕らが声を掛けなければそのまま五色ヶ原山荘へ向かったものと思われた)
要救助者は流血に気づいていなかった
僕らが声掛けしたことで立ち止まり「実は山頂の手前で滑落しまして…」と語り始める
(ニュースでは滑落現場を目撃した登山者が…とあるがどこかで間違って伝わってしまったのだろう。)
スゴ乗越小屋から越中沢岳はザレザレの切れ落ちた斜面のトラバースが幾つかあったので驚きはなかった(写真は滑落現場ではない)
要救助者の今日のスタート地点は僕らと同じ薬師岳山荘で我々より1時間ほど遅く出発
途中のスゴ乗越小屋で見かけたので歩みは遅いどころか健脚な方です
登山歴や経験も私より遥かに豊富
だから原因は分からない
話しを聞いて分かったのは
滑落時にスマホと水の入っていたペットボトルを落とした
痛み止めやテーピング等は持っていて処置はした
流血した場所よりも右脚が痛い(特に下り)
今日は五色ヶ原山荘で一泊予定(予約済み)
足取りはゆっくりながらもしっかりしていて
ご本人は五色ヶ原山荘までは行くと言うので
コースタイム等を伝えて(把握はしていた)水を渡して先行してもらう
カメラは無事で写真も撮っていたので、この段階では大丈夫かな?と思っていた
僕らがもう少しゆっくりして追い抜きざまに様子も見られるし
日没まで時間もある
要救助者を見送った後も山頂でゆっくりして
(恐らく後続者はいないだろう、なので山頂でノンビリしたのは正解だったと思う)
(後で分かったのだがdocomoの電波は入らなかった)
先行していた要救助者に追いついた、ゆっくりながらも足取りはしっかりしているが
声を掛けるとやはり右脚が痛いらしい
実に皮肉な話しだが、
前日宿泊した薬師岳山荘に富山県警山岳警備隊の隊長が来ていて、
これまた皮肉な話しだが「腓骨骨折なら歩ける」とのことだった
要救助者は「昨晩の話しが現実になっちゃった」と自嘲気味に話す
それでも山荘までは歩くというし
前述の話しやご本人の職業柄誤った判断はないだろうと思うが、
念のため名前を伺い山荘にはその旨伝える約束をして先行する
この時点では判断に迷いはなかった、
山荘まで頑張ってくれれば何とかなるだろうと思ってしばらく歩いたその時
距離はあったが
雷鳴が轟いた
弾かれたように後ろを振り向きスマホ(ソフトバンク)の機内モードを解除する、電波が入る。
何故お会いした越中沢岳で電波を確認しなかったのか悔いが残るが
2023.8.10、14時11分
五色ヶ原山荘に電話して経緯を報告
最初に出てくれたのが山荘のオーナーだったのでスグに判断を仰ぐことができた
僕は素人なのだから最初から相談すべきだったと後悔しながら来た道を戻り要救助者のもとへ
距離が離れていなかったのが幸いして、
再度山荘へ電話して山荘オーナーと要救助者で話しをしてもらい救助要請の運びとなりました
最終的に要救助者は山荘までコースタイムで1時間強の鳶山の手前まで来ていた
電話さえすれば割とスグにヘリが来てくれるかと思ったが
現実は…
山荘が連絡してくれたので山岳警備隊からの着信が14時42分
(ちなみに最初の山荘への電話は14時11分)
電波が不安定で思うように通話ができない
山岳警備隊から聞かれた項目は
「上空に雲はあるか?」、「風向きは?」など
山岳警備隊の次の指示は110番通報だった(恐らく要救助者本人または発見者からの要請がないと出動できないからだと思われる)
14時49分に110番
「いつ、どこからの入山か?」「途中立ち寄った場所は?」
「スゴ乗越小屋の通過時間は?」(要救助者は行程をメモしていたので受け答えはスムーズだった)
「今後の行程は?」「現在地は?」(分かりやすい地形にいたし、GPSウオッチで緯度も伝える)
要救助者及び自分の服装や住所、氏名、連絡先など(調書作成に必要なのだろう)
110番後は富山防災センターからの連絡待ち
15時15分に着信、もう一度現場の天気を聞かれ冒頭の説明を受ける
出動が山岳警備隊のヘリ「つるぎ」ではなく
防災センターの「とやま」だったのは「つるぎ」が他の救助で飛んでいたためだろうと推測
(この日は他の山域でも事故があった)
この話も昨日隊長から聞いていた通り
富山の救助の最大の強みは警察や消防などの横の連携があり
警備隊(警察)が消防(防災センター)のヘリに乗って救助ができる
「それを実際に体感できるなんて皮肉ですよね」なんて話しをしたり
今まで登った山や家族の話しをしながらヘリを待つ、天気が良くて本当に良かった
時間通りヘリが越中沢岳の向こうからやってきた
指示通り大きく手を振る、
ヘリはホイスト下降できる場所などを探しているのか
上空を何度も旋回する
しばらくして隊員が降りてきた
そのまま要救助者をピックアップするのではなく
少し離れた場所に降りてこちらへ
写真は隊員が要救助者のザックを背負っているシーン
その上から要救助者を背負いヘリがピックアップできる場所まで担ぐらしい
最後に要救助者とガッチリ握手して目で挨拶を交わす
緊張が解けたのか身体がガタガタと震えていたので救助要請は正解だったしスグに電話すべきだった。
飛び去るヘリ
救助中の写真は同行者が全て撮影してくれました
「私達の」救助活動が終わったのが16時4分
五色ヶ原山荘に電話して今から向かう旨を伝える
山荘のオーナーは電話でも労ってくれて
「夕食の5時に間に合わないのは承知しているからゆっくりこられ」と
富山弁で言ってくれた
山荘に17時半頃に着いて晩御飯、夕食時間は本来17時なので食堂には我々3人だけ
「人命救助お疲れ様でした」
と言われて身が引き締まる思いでした、ビールとカルピスソーダをサービスしてくれた上に
(缶ビールは800円、炭酸飲料は600円)
入浴時間は過ぎていたのに
お風呂まで提供してくれた
翌日、出発前にオーナーと記念撮影
他のスタッフもみんな我々を労ってくれて、とても良い小屋でした
お世話になりました、ありがとうございました。
救助翌日
立山室堂で下山届をネットで提出して
バスやロープウェイを乗り継いで扇沢駅へ
いつも足早に通り過ぎる黒部ダムも見学しながらノンビリ
扇沢駅にあらかじめデポした車で七倉山荘に戻り大町へ
温泉に寄る時間がなかったので
噴水で酸っぱくなった足を洗ってwww
帰途についた
最後に
「危険だから山はやめた方が良い」とゆう意見もあると思います
年寄りの冷や水、わざわざ危険な場所に等々
山をやらない人がそう思うのは仕方ないかもしれないけど…
「下界では交通事故や犯罪もあるから山の勤務の方が楽で安全です。みなさん下山する時は危険な場所に行くのだと自覚して下さい」
50日間山中に勤務する野口五郎小屋で会った山岳警備隊の話しを紹介してこの記事を締め括ります
なにより、下界ではこんな無邪気な笑顔はなかなかできないしね。
だから
またどこかの山でお会いするのを楽しみにしてますよ‼︎
5日間の縦走は本当に楽しかった、ありがとうございました。